前回のあらすじ
- 注目の文房具メーカーに研究者として勤める新は 上司である朔の薦めで特許部員の瑛大から特許のことを教わっている。
- 新は先輩研究員の颯真と研究チームを組み新商品開発プロジェクトに挑むことになった。
- 颯真の研究内容を把握するために新は颯真が過去出してきた特許を読むことになった。
特許を獲得するには!?
このお話で学べること
- 特許のどこを読めば何が分かる?
- 権利範囲はどうやって読めば良い?
- 技術内容はどうやって読めば良い?
こんな疑問ありませんか?
新たちと一緒に楽しく学んでいきましょう!
本編
新と理人が瑛大に特許のことを教わるようになって5日目。
今日は1週間の疲れが出る金曜日。 新は中庭で昼休憩をしていた。
そこへたまたま理人がジュースを買いにやってきた。
あれ、しまった。困ったな・・・。
理人くんお疲れ。どうかした?
あ!新さんこんにちは!自販機でジュースを買おうと思ったんですけど小銭が無くて…
ジュースくらいおごってあげるよ。どれが良いの?
良いんですか!?やっぱり社会人かっこいいな~!バナナオレでお願いします!
たかがジュースで大袈裟だよ!笑
はい、どうぞ。せっかくだしベンチで雑談でもしようか。
ありがとうございます!ぜひお願いします。
ベンチに腰掛けジュースを片手に話を始める2人。
理人くんってもう少しで就活だよね?どんな道に進みたいとかあるの?
実は結構迷ってるんです。漠然と研究者狙いではあったんですけど…。インターンに来てみて理系の仕事にも色々あるんだなって。
そうだね。最初何を選ぶかも大事だけれど、その後のキャリアパスも重要だよね。
そうですよね!僕いま特許の仕事に興味が湧いているんです。特許のスキルを身に付けてから研究したら良い製品つくれそうだなって。
確かに!特許職を経験して研究職に移った人はレアだと思う!そのキャリアは価値が高そうだね!
そうなんですが…まだ道のりは長そうです。
さっき初めて特許を読んでみたんですけど難しくてさっぱり分かりませんでした。
分かる!僕もいま颯真さんの特許読んでるんだけど読み方がイマイチ分からないんだ
よね。
午後は僕も瑛大さんのところで勉強だから聞いてみようか!
良いですね!そうしましょう!
昼休み中に理人くんから聞いたよ!特許を読むのが難しくて苦労しているようだね。今日は読み方のコツを教えようか。
とてもありがたいです!
よろしくお願いします!
どこに何が書かれているかをいきなり話しても頭に入らないよね。それじゃあ2人に質問です。
特許を読んで何を知りたいですか?まずは新くん、せっかくだから企業の研究員の目線で答えてみて。
わ、わかりました!
まずは①誰が出願した特許かは気になりますね。
いいね!会社としてライバルと製品開発を競っているもんね。誰が特許をとろうとしているかは大事な情報だね。
あとは…。前に瑛大さんから特許は早いモノ勝ちって教えて貰いましたし、 ②いつ出願されたものかも知りたいです。
特許は早いモノ勝ち!?
うんうん! 誰がいち早く出願したかを知るために重要だね。出願日の情報にはもう一つ意味があるんだけど何か分かるかな?
僕が答えます!特許は出願してから20年間の期限付きの権利です!出願日を知ればその権利がいつまで続くかも分かりますよね?
おお~!よくわかったね!その通りです!
時間の切り口で言えば③その出願がいつ公開されたかも大事ですね!
2人とも冴えてるなぁ!本当に教え甲斐があるよ。どうして公開日が大事だと思う?
特許権を獲得するための審査のポイントに新規性がありましたよね。つまり世の中に知られていない技術と言うことが大切です。特許が公開されたらその時に知られた技術になります!
特許を獲得するには!?
そうだね!ライバル会社の特許が公開されたらその日以降は似たような技術で特許をとるのが難しくなるよ!
時間情報はこんなところかな。それじゃあ新くん!企業の研究員が特許を読んで最も知りたいことは何かな!?
④その特許の権利範囲ですよね!研究開発をする上で誰がどこに権利を持っているかは超重要です!
バッチリです!やるね~!
それじゃあ最後に理人くん!今挙げてきたことは正直大学の研究者にとって興味は薄いよね。理人くんなら特許を見て何を1番知りたいかな?
それは当然⑤技術の内容です。論文を読むのと同じで特許からも技術を学びたいので!
そうだよね。その目的はもちろん企業の研究者にとっても同じ。でも大学の研究者にとっては特に大きな目的だよね。
2人の意見を書き出すとこんな感じかな!
まずは①~⑤の情報が特許出願書類のどの辺りに書いてあるかを知っておこう!
それ助かります!特許って長いしどこにどんな内容が載っているか知りたいです!
そうだよね!正直慣れていない人が読んだら困ると思う。笑
出願から1年半後に公開される特許の書類を公開公報と呼ぶよ。公開公報は大きく分けて5つのパーツでできてる。
上から順に、書誌事項、要約書、特許請求の範囲、明細書、図面 の5つ。
へ~!全部繋がって見えたけど、実は5つのパーツに分かれているんですね。
そうなんだ。技術分野によるけれど、要約書と図面の2つは理解を助けるサブの位置付けかな。内容的にメインなのはその他の3つだよ。
さっき書き出した5つの情報がどこに書かれているかを教えるね。①~③の誰がいつ出願して公開されたかという基本情報は書誌事項に載っているよ。④の権利範囲は特許請求の範囲、⑤の技術内容は明細書に書かれています。
特に大事な内容が詰まっているのは④特許請求の範囲と⑤明細書だね。
この2つを重点的に読むことの大事さを再確認しておこう。まず④に書かれている情報は権利範囲。これについては前に説明したこの図を思い出して欲しい。
特許は陣取り合戦!?
ライバルの特許の権利範囲内は相手の陣地内ってやつですね。研究を進めるうちにいつのまにか相手の陣地に入ってしまうとビジネスにならないです。だからライバルの特許の権利範囲をしっかり読んで知っておくことが大切という訳ですね。
そう!それが④特許請求の範囲を読むことの目的だよ。
次に⑤に書かれている情報は技術内容。これを読むことの目的は明らかだよね。いつも説明しているこの図を思い出して欲しい。
なぜ研究に特許が大切?
特許制度は生み出した技術を一定期間独占する権利を貰える代わりに、その技術の内容を丁寧に説明して世の中に公開するもの。公開してくれた技術情報を自分たちの研究に活用しなくちゃ損ですよね!
100点満点!2人ともよく復習してあるね!
とはいえ2人が困っているように④特許請求の範囲と⑤明細書は一見読むのが難しいんだよね。
でも大丈夫!この2つには書き方や流れの型がある。それをイメージで捉えておくと読みやすいんだ。
そうはいっても本物の公開公報は難しい技術内容が書かれているからね。ここでは具体例として鉛筆の発明を使って説明しようかな。
前も鉛筆の例はシンプルで分りやすかったので助かります!ぜひお願いします。
OK!それじゃあ鉛筆の発明の設定はこうしようかな。
へ~!確かに鉛筆って六角形が主流だけど3の倍数が持ちやすいっていう理由だっ
たんだ!
僕も知らなかったです!面白いですね!
思わぬところで盛り上がっている。笑
ま、でも、知らなかった技術的な工夫を聞いてワクワクしちゃうのは研究者あるあるだよね。笑
ついでに言うとね!色鉛筆って六角形ではなくて円形のままでしょ?あれは色芯が太いから周りの木材の面積を広くとるために円にしてあるんだ!
確かに色鉛筆はどれも円形だ!知らなかったです!
っていうか瑛大さんも乗っかってるじゃないですか。笑
目がキラキラしてますよ。
ごめんごめん。笑
でもね…実は特許の仕事の面白さの一つってココにあるんだ。色んな最先端技術の工夫ポイントを知ることができる。特許出願に携わる度に新しいワクワクが得られるよ。
なるほどです!ますます興味が湧いてきました!
それじゃあ話を戻すね。この鉛筆の特許について公開公報が出たとしよう。まずは④特許請求の範囲がどんな風に書かれているか説明するよ。
権利範囲の読み方ですね!よろしくお願いします!
たった一文で権利範囲を表現しないといけないから実はここが一番難しいんだ。
そうなんです!一文で長々しく書いてあって何だかよく分からなくて。
そうなんだよね。でも読み方のコツはあるよ。一文で書いてはあるけど条件に分解して読むと分りやすいんだ。
う~ん・・・。どういうことですか?
特許請求の範囲をよく読むとね、転がらない鉛筆の条件が一つ一つ列挙されているだけなんだ。1.断面が多角形、2.芯材の周りが木材、3.芯材が細いという感じでね!
なるほど。その一つ一つの条件は読んでよく分かります。
権利範囲はこの全ての条件を満たす範囲なんだ。絵で描くとこんな感じになるよ。それぞれの条件の範囲を円で表した場合に全てが重なるところだね。
なるほどです!特許請求の範囲を条件毎に一回バラバラにして理解すれば良いんですね。その後に全てが重なるところをイメージすれば権利範囲になる!
そういうこと!条件に分解するというイメージを身に付けると一気に読みやすくなるよ。実は、技術内容が載っている⑤明細書の方もこの条件毎に説明されていることが多いからね。
次は⑤の明細書の読み方を説明しようかな。
お願いします!
前に、実験結果は「点」で権利範囲は「面」と説明したことを覚えているかな?
覚えています!転がらない鉛筆として実験したのが六角形だけ(点)だとしても大事なのは角を付けたこと。技術は広く通用するので、例えば多角形の範囲(面)まで権利をとれるかもしれないんですよね!
その通り!明細書には、この「点」~「面」を繋ぐ説明がされているよ。
明細書の一番下には具体的に実験した例(点)が書いてあるんだ。これを実施例というよ。実施例(点)からの技術の拡がりが説明されて権利範囲(面)に繋がるイメー
ジ。
イメージは分かりました!具体的にはどんな流れで書かれているんですか?
OK!明細書の上から順に説明していくね。
まず一番最初に出てくるのは従来技術。要はこの発明の前にどんな技術が知られていたかということだね。
今回で言うと断面が丸い鉛筆になりますね。
次は発明が解決しようとする課題。従来技術(丸い鉛筆)にはどんな欠点があったかだよ。
ふむふむ。傾斜がある机に置くと転がってしまうということですね。
いいね! その次は課題を解決するための手段。その欠点(転がる)を解決するためにはどうしたら良いかだね。
鉛筆の断面を多角形にしたことですね!
もう一つ工夫点があったよね。芯の周りの木材を多角形に削る時に割れたりしないように中身の芯を細くしておくこと!例えば直径5mm以下としようか。
持ちやすいように3の倍数の多角形にするということもありましたよね?
確かにそれもあるね。でもそれは多角形の中に含まれるものの一つだよね?
確かにそうですね!
次の実施形態の欄にはまさにそんなことが書かれているよ。解決手段に含まれる具体的なアイデアは何か(3の倍数の多角形が特に良い)ってことだね。
そして最後に実施例ってわけですね!
そう!実施例には実験で試した例が書かれているよ。4、6、9、10角形を試してみたら10角形だけは転がってしまった、という感じでね。
その場合は多角形だと広過ぎるかもしれませんね。3~9角形くらいにしておかないと…。
そうそう!権利範囲は実施例や明細書で説明されていることとのバランスで決まるん
だ!
やっぱり具体例があると良く分かります!
最後に今日のまとめとして初心者におすすめの読み方を教えておくね。
そんなのあるんですか!?
読み方は人それぞれではあるけどね。僕が初心者におすすめするやり方はあるよ。
ぜひ教えてください!
そのためにはまず初心者の落とし穴を確認しておこう。一つ目は特許の書類に最初に特許請求の範囲が登場することなんだ。
確かに。正直最初から難し過ぎて心折れましたもん。
特許請求の範囲はとっても大事な情報なんだけれど一番難しい言葉で書かれているからね。慣れるまでは後から読むことをおすすめするよ。
上から順番に読まないってことですか!?それじゃあどこから読んだら良いんですか?
まずは、明細書の①従来技術②課題③解決手段を読むと良いよ。昔どんな技術があって、欠点は何で、どう解決したのかがストーリー調で書かれているからね!
それで発明のイメージを掴んでから④特許請求の範囲を読むと何を言っているか分かるよ!
なるほどです!それなら読めそうな気がします!
そしてもう一つの落とし穴!中盤の実施形態の欄は一番長文のパートだから途中で読み疲れる。
まさにです!長々と書かれていて挫折しました!
そうだよね!だからそこは一旦読み飛ばして⑤実施例を見ると良いよ!具体的な実験例をいくつか見ることで④特許請求の範囲のイメージがより具体化されるよ。
最後に、④特許請求の範囲と⑤実施例のイメージのずれを補うように、⑥実施形態を見たいところだけ読めば良いよ。
今日の話はとっても実践的でした!早速この方法で特許を読んでみます!
良かった!何件も読んでいるうちに慣れてくるはずだけどまずはこのやり方を試してみてね。
ありがとうございました!今日も勉強になりました!
次回へ続く。
特許ってどう調べるの!?
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