前回までのあらすじ
- 今注目の文房具メーカーに研究者として勤める新は 先輩研究員の颯真と研究チームを組み 新商品開発プロジェクトに挑んでいる。
- 新と同期入社で若手のホープと称される事業企画部の悟がプロジェクトチームに加わった。
- 新が考えた新商品コンセプトの技術について特許出願をするため 新と悟は特許部の瑛大と出願内容について相談した。
- 出願内容のイメージが固まったため 特許事務所の弁理士(茂瑚山さんと真琴さん)に依頼することになった。
特許出願の本設計
(発明のストーリー構築)
このお話で学べること
- 出願書類を作成する際の検討ポイント
- 出願方針(設計図)を書類に落とし込むコツ
- 出願書類の骨格の捉え方
一緒に楽しく学んでいきましょう!
本編
瑛大と相談して遂に方向性がまとまってきた 新の初めての特許出願。
今日はいよいよ特許事務所の弁理士を交えての打合せ…
茂瑚山さん真琴さんご足労頂きありがとうございます。今日は弊社の出願のお打合せよろしくお願い致します。
出願のご依頼ありがとうございます!よろしくお願い致します。
前に新さんから新製品プロジェクトの開発をされていると聞いて…出願のご依頼をとても楽しみに待っていました!
ありがとうございます!何とか今までにないボールペンの案が出来ました!
なかなかオモロイ技術やと思います!事業に資する特許になるようバックアップよろしくお願いします!
はい!全力で支援させて頂きます!
心強いです!それじゃあ早速だけど…まずは新くんから技術内容を説明して貰えるかな?
了解しました!
…これはまた随分やりがいのあるお仕事ね!真琴さん。
は、はい…とってもワクワクします…!
そう言って頂けて嬉しいです!
瑛大さん。新は弁理士さんへの出願依頼は初めてなので位置付けを再確認しときますか?
そうだね!新くん、前回まで僕と一緒に出願の準備としてどんなことをしてきたかな?
は、はい!特許出願の方向性を決める設計図を描いて来ました!
うんうん。具体的に検討した内容を教えて貰えるかな?
①権利として希望する範囲②審査を突破し権利が潰されないための特許性の補強③特許権が侵害された場合の訴訟での使い勝手等です。
バッチリやな!①~③を1件の出願で全て完璧にするのは難しい。せやから特許出願の目的に照らして何を重視した設計にするかを決めていくことが大事やな。
ここまでの工程は、研究者と知財担当との間で事業や研究開発の方向性を相談しながら決めていけると理想的だね。
その設計図を基にして実際に出願書類に落とし込んでいく。特許事務所の弁理士さんにはその工程を依頼していく訳やな。
なるほど…如何にその設計図とズレなく文章に落として貰えるかが大事なんですね?
…そんな単純な話とちゃうで。実体の無い技術的な思想を捉えることには想像以上に高い創意工夫が必要やと思わんか?
それを特許に関する法律や基準に適合するように文章で表現するには高い専門性が求められる。
そうですね。法律や基準にも幅があり絶えず進化していきますので、各国の最新の実務傾向を取り入れながら出願明細書を作成することを心がけています。
し、失礼しました…!常に最新のルールや傾向を把握しながら、創意工夫して技術内容を表現して下さっているのですね…。
但し…いくら高い専門性が求められるからといって、この工程を弁理士さんに丸投げするだけでは良い出願書類は生まれへんで。
その通り!僕らが準備してきた出願の設計図も複雑な構想だったよね。そしてそれを出願書類に落とし込む時にも専門的な創意工夫が入るとなると…
両者に大きなギャップが生まれそうですね!
だからこそ…自分達が設計した各内容が出願書類のどこに表現されるものなのかを知っておくことが大切なんだ。
そうするとコミュニケーションが円滑になって要望が的確に伝えられるようになるで。
という訳で…出願の設計図の各項目と出願書類の各パーツとの対応関係を説明するね。
瑛大さん。せっかくなのでそこは真琴さんにやらせても良いかしら。新さんとタッグを組んで出願書類をつくっていくことですし…。
それが良いですね。真琴さんお願いしてもよろしいですか?
ぜひやらせて下さい!
真琴さんよろしくお願いします!
まずは前提として特許出願書類に記載される中身のパーツを説明しますね。
あ!それは前に瑛大さんから教わったので大丈夫です!①書誌事項②要約書③特許請求の範囲④明細書⑤図面ですよね!
明細書の中身は更に細かく分かれていたね。ここにまとめてあるからまた復習しておいてね!
特許ってどう読むの!?
真琴さん。いつものように出願内容の構想(設計図)は描いてあります。それらが出願書類のどこに落とし込まれていくかの対応関係をご説明頂けますか?
わかりました!
新さんが具体的に見出した点の技術アイデアや実証結果については実施の形態や実施例の欄に記載します。
ふむふむ。一番具体的な内容は出願明細書の最下層にくるんですね。
発明を定義する上でもう一つ大前提となる情報があるんですけど…わかりますか?
はい!先行技術ですよね!発明は先行技術に対する差分で定義するものだと教わりました!
ズバリその通りですっ!こちらは明細書の一番上の方の従来技術の欄に記載します。
発明の核となる技術情報と先行技術との位置関係を踏まえた上で希望する権利範囲を設計頂いているかと思います。それを特許請求の範囲の欄に表現します。
注意点としては特許請求の範囲がただの願望にならないようにすること。仮設計の時に最低限先行技術に対する新規性は確保しておいたよね…
確かに新規性も突破できない権利範囲を希望しても仕方が無いですね…。
足切り点のようなイメージですよね!最低限そこはクリアしておかないとですね。
そして…本設計では希望した権利範囲がきっちり審査を突破して実現できるように補強をして頂いたと思います。
ストーリー性の構築と説明したね!
はい!覚えています!具体的には進歩性やサポート要件を突破するためにロジックを練り上げましたよね!
そのロジックを出願明細書に仕込んでいきます!こちらは、課題、解決手段、効果の3点セットに跨って記載します。
当然そのストーリーは従来技術との位置関係や実施形態からの拡がり等から説明していくことになりますので、出願明細書の全体の項目との繋がりを俯瞰しながら落とし込んでいくイメージになります。
以上ですっ!
これまで描いてきた出願内容の構想が具体的にどこに落とし込まれていくかがよく分かりました!
真琴さんありがとうございます。これで出願書類作成にあたってのコミュニケーションの質は格段に上がりそうですね。
実はもう一つ…出願書類の骨格を捉える上で重要な視点があるので伝えておくね。
よろしくお願いします!
発明の捉え方や出願書類の見方のコツとしてこんなイメージを持って欲しいんだ。
発明の核を中心に、上位、中位、下位概念というように段階的に複数の発明を定義するということですね。
上位概念である程広く 下位概念である程狭く 発明を捉えることになります。当然 上位概念で捉えた発明の方が広く権利を獲得できる可能性はある訳だけれど…
…その代わりに審査を突破できる可能性は低くなってしまいそうですね!希望する権利範囲を拡げすぎると関係する先行技術も増えて突っ込みどころが多くなるので…。
逆に言えば、権利範囲を絞れば審査を突破する確度を上げることができそうやな。
その通り!権利範囲の広狭 と 特許権としての強弱(審査を突破できるか/権利を潰されないか)は逆に連動する傾向があるんだ。
だからこそ…範囲は狭くとも強度の高い本丸を構えながら、徐々に範囲の広いお堀を設けていくイメージで発明を段階的に定義することが大切なんです。
す、すごい戦略的ですね!
もう少し具体的に説明するね。最も権利範囲の広いお堀は発明としての必須の条件だけでシンプルに表現します。
今回の新さんの発明(美文字矯正ボールペン)で言うと…ボールペンにセンサーを取り付けたという条件だけで表現した技術ですね。
なるほど…指定する条件が少ない程、権利範囲としては広くなりますね。
逆に、強度としては脆弱になるよね。何でも良いから取り敢えずセンサーを取り付けただけのボールペンなら先行技術も見つかるかもしれないし…。
そこで…追加の条件を加えて範囲を絞り、代わりに強度を上げたお堀も用意します!例えば…センサーで検知した美文字データを記録するチップも取り付けたということを表現してはどうでしょう?
なるほど!確かに権利範囲は狭まりますけど、先行技術も入り込み難くなるので審査は突破しやすそうです!
他にはどんなアイデアがありそうかしら?
そうですね…取り付けたセンサーは何でも良い訳ではないのでそこは具体化できると思います。持ち手部にはボールペンを握った時の圧力を検知するセンサー、ペン先部には書く時の軌道を検知するセンサーを用いるというような条件を加えたいと思います。
こんな感じで、技術要素に分解して条件の足し引きによって発明を段階的に表現するイメージを持つことが大切だよ。
イメージは分かりました!出願書類の実際の記載に照らすとどうなりますか?
権利範囲を示す特許請求の範囲では請求項と呼ばれる項目毎に発明を定義します。請求項1>請求項2>…と広いお堀から順に条件を加えて狭めていき、最下層の請求項で本丸を護るようなイメージです。
請求項の一つ一つが権利範囲となる発明を表すんですね…。請求項って幾つでも書けるんですか?
特に制限はないよ。書いた分だけ審査にかかる費用は増えるし単に数を多ければ良い訳ではないけど…権利範囲の広狭と特許権としての強弱のバランスを考えながら段階的にお堀を設けて自分達の事業を守る意識は大事!
分かりました!出願明細書の方ではどうなりますか?
請求項の発明は①+②+③+④のように技術要素の足し算で表現されます。出願明細書では、①~④のパーツにバラシて技術的な意味合いを述べた上で、それらを統合して1セットの発明を説明します。
発明を「分解」と「統合」で見るというイメージを持っているだけで、出願書類の骨格構造が見えてきます。これはコツの一つなのでぜひ頭に置いて実際の出願を検討していきましょう!
はい!ありがとうございます!
出願書類への落とし込み方のイメージを掴んだ新。
茂瑚山弁理士、真琴弁理士と打合せを進めて無事出願依頼の内容が固まった
茂瑚山さん真琴さんありがとうございました。それではこの内容で出願書類の作成を正式にご依頼させて頂きます。
遂に僕の初めての出願がカタチになっていくんですね…!よろしくお願いします!
はい! 任せてくださいっ!良い出願明細書になるように頑張りますっ!
打合せが終わり解散しようかという頃…
あ!もこさんとまこっちゃん♡ いらっしゃってたんですね~!
あら!葵ちゃん♡相変わらず美人さんね~!
な、なに言ってるんですか!もう…もこさんったら、からかわないでくださいっ!
超絶美人はからかわれても仕方ないよ…葵ちゃん。
もう!まこっちゃんまでヒドイじゃない!
あはは!ごめんね、葵ちゃん^ ^
久しぶりに会えて嬉しくなっちゃって♡
えへへ♡私もです。
そういえば…昨日のイーパテントのトークセッション観た!?
観ました!今回も面白かったですね♡
イーパテント…?ってなんですか!?
知財系YouTubeの二大巨頭の一つだよ!野崎篤志さんが知財に関係するゲストを呼んで様々なテーマでトークセッションをする番組なんだ!
へぇ~!面白そうですね!二大巨頭のもう一角は何なんですか?
その名も…知財実務オンライン!こちらも知財系のゲストを招いてのライブ配信番組なんだ!
…知財業界も情報発信が加速しているんですね!両方ともライブ配信みたいですけど特徴の違いはあるんですか?
知財実務オンラインはゲスト講師のプレゼンとQ&Aが中心の番組かな!テーマは知財ど真ん中のものが多くて内容も深いよ!
イーパテントは野崎さんとゲストの掛け合いによるトークが中心の番組だね!テーマは知財が関係しながらもバラエティに富んでいて視野を拡げるにはもってこいです!
知財実務オンラインも良いけど…やっぱり野崎さんの笑いと真面目さの丁度良いバランスが素敵よね~!
イーパテント司会者
野崎篤志
ええ~!私はダンディズムを感じる押谷さんがカッコいいと思います!
知財実務オンライン司会者
押谷昌宗
私は…優しさと包容力の中に時折覗かせるブラックテイストがたまらない加島さん推しです…。
知財実務オンライン司会者
加島広基
ええ…っ!?(何だか揉め始めたぞ…?)
は、始まってしまった…。この3人は知財系YouTuberの推しメンがばらけていてよく揉めているんだ…。
そうなんですか…。今や知財系YouTuberにも「推し」がいる時代…。笑
こうなると暫く終わらないから…今日はここまでにしよっか。
はい。ありがとうございました。
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