現代のビジネスシーンでは、研究開発の段階から事業の拡大までを見越した特許ポートフォリオの構築が非常に重要となっています。この記事では、プロダクトライフサイクルを基に、それぞれのステージと障壁を探り、時間軸の観点から事業と特許ポートフォリオの関係を明らかにしていきます。
目次
プロダクトライフサイクルとは
プロダクトライフサイクルとは、製品やサービスが市場に導入されてから衰退するまでの流れを示す理論で、その寿命をいくつかのフェーズに分けて体系化されたものです。一般的には、以下の4つの段階に区分されます。
- 導入期
ここでは新製品やサービスが市場に導入され、顧客に知られ始める段階を指します。初期投資が大きく、利益はまだ出にくいフェーズです。
- 成長期
導入期を経て製品やサービスが受け入れられ始め、売上が増加する期間を指します。企業はこの時点で市場拡大策を講じ、利益を増大させることを目指します。
- 成熟期
この段階では市場の飽和が進み、売上増加率が鈍化する時期を示します。競争が激化し、企業は差別化策を探求します。
- 衰退期
ここでは市場の需要が減少し、売上が下降する段階を指します。企業は新たな製品開発を進めるか、効率化策を講じる必要があります。
この理論を事業の時間軸と組み合わせて特許ポートフォリオの策定に活かすことで、各段階に適した戦略的な取り組みが可能となります。プロダクトライフサイクルは、事業展開において重要な指南役を担う理論となっています。
技術経営MOTと事業の時間軸
技術経営MOT(Management of Technology)とは、テクノロジーの管理と戦略的活用を学ぶ理論や実践的な手法を総括する分野であり、事業の時間軸と深く関連しています。技術経営では、特にR&D段階での特許網の構築を重視します。それは、新技術の開発初期段階から特許を積極的に取得し、その技術の活用環境をコントロールしながら市場に展開していくという戦略が求められるからです。
プロダクトライフサイクルの視点から言えば、導入期から成熟期にかけての段階で、特許ポートフォリオの構築と管理が非常に重要となります。これは、新しい技術や製品が市場に導入される初期段階で、技術的な独自性を確保し、競争優位を築く基盤を創り出すためです。
また、特許網構築は、技術経営における各ステージで顕著な障壁を乗り越える手助けとなります。技術開発の各フェーズで遭遇する困難な状況や問題を乗り越えるための特許網を先手で構築していくことによって、次のステージへの推進力になります。
このように技術経営MOTは、プロダクトライフサイクルと組み合わせることで、事業の時間軸に沿った効果的な特許戦略を立てることも可能になります。技術革新を成功に導くための重要な要素であり、事業の時間軸と連動した形で取り入れることが求められます。
ステージと障壁
技術経営MOTの文脈で議論される「ステージと障壁」は、テクノロジー開発と事業化の各段階で遭遇する可能性のある問題点や困難を特定し、それらを克服する方法を模索するという視点から分析されます。このアプローチは、特定の障壁が各ステージに関連していることを意味しており、それらは「魔の川」、「死の谷」、「ダーウィンの海」として知られています。一つ一つ概要を説明します。
魔の川
このステージは研究から開発への移行期に存在し、技術の開発がまだ未熟であるために、市場ニーズに適した形での製品開発が困難であるというギャップが生じることが多いです。企業は、この段階でのシーズからニーズへの移行をスムーズに行うための戦略的なアプローチが求められます。
死の谷
ここは開発から事業化への移行期に見られる障壁であり、多くの技術が市場導入前の最後の試練とも言える段階です。この時期には、企業は製品開発の終了と商品開発の開始の間で資金調達や市場戦略を含め、重要な決定を下さなければなりません。
ダーウィンの海
この段階は事業化から産業化への移行期で、大規模な投資判断が求められます。事業がさらに拡大し、競争が激化する中で、企業は継続的な成長を目指しながらもリスク管理に重点を置く必要があります。
これらのステージと障壁の理解は、技術経営MOTの視点から事業の時間軸に沿った効果的な特許戦略を立て、プロダクトライフサイクルを通じて技術革新を成功に導くうえで極めて重要です。企業はこれらの障壁を認識し、それぞれのステージで適切な戦略を展開して障壁を克服することで、事業の成功に繋げることが可能となります。
特許ポートフォリオの重要性
事業の進展において、特許ポートフォリオの構築と管理は重要な役割を果たします。その際、上述の「ステージと障壁」の視点から各フェーズで遭遇する困難を克服するための効果的な打ち手が不可欠になります。そのためには、事業の時間軸を深く理解し、それに沿って最適な特許ポートフォリオを構築することが求められます。これにより企業は、テクノロジーの進化と市場のニーズを結び付け、競争優位を築く強固な基盤を創出できます。時間軸が絡むことから、ある時点で策定した特許ポートフォリオイメージを適切且つ柔軟に移行させていく管理体系が重要になります。
事業・研究開発ロードマップとの統合
特許ポートフォリオの戦略的構築と管理は事業の成功に寄与しますが、これをさらに進化させる方法として、事業と研究開発のロードマップを統合するアプローチがあります。ロードマップは事業展開の各ステージを視覚的に表現し、それぞれのフェーズでの目標と戦略を明確にします。この流れに統合されることで、企業は特許戦略をより具体的かつ効果的に立案することが可能になります。特に、技術の進化や市場のニーズを考慮しつつ、それぞれのステージで遭遇する困難や障壁を明確に識別し、克服する策を描くことができます。
出願の切り口の遷移
特許ポートフォリオの管理と連動して注意深く検討したいことは、特許権の満了と出願切り口の遷移です。特許権の存続期間は通常(出願から)20年間であり、企業はこの期間が満了する前に新しい特許を継続的に仕込んでいく必要があります。この観点から、事業・研究開発ロードマップと統合した特許戦略は、特許権満了の影響を織り込んで競争優位性を持続させる計画を描くために大変役立つツールとなります。このアプローチを用いることで、企業は特許ポートフォリオを時間的な視点で適切に管理し、技術革新の道筋をつくりながら市場のニーズに応える新たな特許を策定していくことができます。したがって、各特許権の満了時期を戦略的に管理し、それらを踏まえてどのような切り口の出願をどのような手順で推進していくかを示すことが大切になります。特許は出す順番を間違えると特定の切り口の出願のチャンスを潰してしまうという難しさがありますので、技術開発のタイムラインと横並びで企画管理していくことが極めて重要になってきます。なお、そのための具体的な手法やフレームワークを知財の楽校の教育コンテンツでは提案しています。
事業と特許ポートフォリオの戦略的活用
ここまででご説明してきましたように、企業が取り組むべき事業の戦略的な方向性と特許ポートフォリオの最適化は深く結びついており、その活用は事業の成長と持続的な競争力を確保するうえで重要です。特に、特許権の存続期間は限られていることから、企業はその期間内に次の革新への道筋を創出し、新たな特許権を取得する戦略を逐次構築する必要があります。
このプロセスは、事業と研究開発のロードマップを統合したアプローチを活用し、それに基づいて特許ポートフォリオを管理することでより具体的かつ効果的に行うことができます。特許戦略は企業のテクノロジー革新と市場ニーズとの間のギャップを縮める役割も果たし、市場における競争優位を持続的に確保できる基盤を築き上げます。
結局のところ、企業が成功を収めるためには、事業の展開を見越した持続可能な特許戦略を築くことが不可欠であり、それには事業の時間軸と特許ポートフォリオの関係を深く理解し、策定した戦略を随時見直し、適切にマネージする能力が求められます。このようなアプローチを取り入れることで、企業は事業の成長を促進し、長期的な競争力を確保できます。
まとめ
本記事では、企業が直面するプロダクトライフサイクルの各段階における障壁と特許ポートフォリオの関係性について解説してきました。事業の時間軸を深く把握することで、各ステージで遭遇する困難を先読みし、適切な戦略を立案することが重要となります。特に、事業と研究開発ロードマップを連携させることで、特許ポートフォリオの戦略的活用を図り、企業は市場での競争優位性を持続的に確保することができます。
このアプローチは、特許権満了のリスクを想定して新しい特許出願の矢を継いでいき、競争優位性を持続しながら技術革新の道のりを支えることに繋がります。そして、これらの知見やツールを活用して、事業展開と研究開発の連携を強化し、各フェーズでの目標と戦略を明確にすることも可能になります。このようなタイムラインを意識した包括的な知財活動は、事業成功の道を切り開く強固な基盤を築き上げる助けになるはずです。
記事作成者
皆さんこんにちは。知財の楽校で代表をしております玉利泰成と申します。私は2014年に新卒で出光興産に入社し、最初の5年間はコーポレート系の知的財産部門で知財実務全般に従事してから、新規事業立ち上げ期のリチウム電池材料部門に籍を移し、開発現場で知財戦略の立案と推進、各種知財管理体制づくりに携わりました。在籍中の2021年2月に副業で知財教育サービスの個人事業を開業し、半年後の8月に法人成りして創業した会社が知財の楽校です。その後、出光興産を退職し、現在は建設テックベンチャーのPolyuseというスタートアップで知財責任者として働いています。また、2023年10月からは知財塾の社外取締役も務めております。
※株式会社知財塾 社外取締役就任(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000096850.html)
【就任理由】教育事業においてさらなる顧客価値の向上を図るため、同じく知財業界で教育事業を展開している株式会社知財の楽校の代表取締役社長である玉利泰成氏を社外取締役として迎え入れました。
【コメント】私が代表を務める知財の楽校では、事業・開発との繋がりを重視した知財知識体系の構築に取り組んでおり、主に技術者向けの知財研修用動画教材の企画・制作をしてきました。知財塾の演習・実践形式を中心とした専門実務志向のコンテンツと協力体制を緊密にし、知財人材としての標準スキルセットをより網羅的に教育支援していきたいとの想いを上池さんと共有したため、この度、社外取締役としてジョインすることになりました。どうぞよろしくお願いいたします。
※知的財産管理技能士会表彰(https://www.ip-ginoushikai.org/hyoushou)2022年奨励賞
企業に所属し研究開発の現場で知財戦略や実務に取り組む傍ら、独力で知財教育サービスに関する法人を立ち上げ新ビジネスの創出にも挑戦し、複業スタイルにより、①知財専門性を磨くことと知財以外のスキル(経営感覚等)拡張との両立、②個社の知財活動により現場感覚を維持しながら業界全体の発展に向けたサービスを生み出すこと、を満たすような知財技能士としての新しいキャリアの在り方を積極的に示そうとしている実績。
知財技能士・知財アナリストのための特別セミナー「キャリア拡大!知財パーソンの複業を考える」に登壇し、知財技能士のキャリア開発に貢献した実績。
※知財HRキャリアインタビュー(https://hr.tokkyo-lab.com/column/pinfosb/interview5)
今までも、これからも、知財活動の現場をマルチに追い求めるチャレンジャーでありたいと考えておりますが、日本全国の知財人材の皆様と一緒に成長していきたいという想いがあり「IPマルチジョブログ」を始めることにいたしました。コーポレート知財部・事業部知財課・スタートアップ知財責任者・複業で知財サービス会社の起業、と渡り歩くなかで得られた知見を発信し、少しでも皆様の知財活動の発展に役立つ情報が届けられればとのコンセプトです。日々の現場活動からテーマを選定して記事や動画にまとめていきますので、ご興味のあるコンテンツをご覧ください。
また、「知財キャリア相談1on1」も行っております。若手知財人材(35歳以下)の皆様が抱えているキャリアの悩みに直接1on1で相談に乗ります(5000円/時間)。オンライン面談形式ですが相談内容については秘密保持を誓約します。IPマルチジョブログを見るなかで、知財活動の捉え方やキャリアの考え方について共感する部分が多ければ、ぜひ「お問合せフォーム」からご連絡をお願いいたします。
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