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今回は、回転寿司チェーンストアで有名な『くら寿司』と『スシロー』の比較を、特許の観点から紹介いたします!
『同じ回転寿司チェーン、どこが違うの?』
『スシローも特許出願していたの?』という方は、是非ご覧ください。
※本記事は、2023年12月時点での調査に基づいて執筆しております。
目次
レーンから取られたお皿をカウントするシステム
飲食したお寿司のお皿を、テーブルの端に積み上げ…会計時に店員さんがお皿を数えに来てくれる。いつからかそんな光景がなくなり、レーンから取ったお皿が自動でカウントされ、お会計がスムーズになりました。
この、『お皿をカウントするシステム』はくら寿司、スシローの両者が特許出願していました!内容を比較してみましょう。
スシロー:お皿の有無を判定することによりカウント
自動化に注力しているといえばくら寿司!というようなイメージがあったのですが、実は、先んじて特許出願していたのはスシローのほうでした。特許を見てみましょう。
特開2019-103603
発明の名称:飲食物の消費量カウント装置
出願人:株式会社スシローグローバルホールディングス
出願日:2017.12.12
ステータス:登録(2023.12時点)
スシローのお皿カウントシステムは、お皿の有無の変化を判定することによりカウントしています。
引用元:特開2019-103603の図2
具体的には、各客席(BOX席)の上流側と下流側にカメラが設置され、各地点のカメラでお皿を検出できるかどうか?を判定します。
上の図では、レーンの左から右にお皿が流れています。BOX席Bの上流側に設置されたカメラの撮像結果からはお皿が検出されたものの、下流側に設置されたカメラの撮像結果からはお皿が検出されなかったことから、BOX席Bの顧客がお皿を取ったと判定されます。シンプルでわかりやすいですね。
※補足:本案件は、審査の過程で補正されたことにより請求項の内容が限定されています。最終的に登録となった請求項を見てみると、請求項1にさらに以下の限定が入っており、範囲が減縮されています。
- 上流側カメラでお皿が検出されない+下流側カメラでお皿が検出された場合はカウントを1減算する(お客が一度お皿を取ったが迷ってレーンに戻したケース)。
- カメラの撮影によって取得した、お皿の複数の画素から、お皿の色を識別する。
くら寿司:カバーの開閉状態を判定することによりカウント
スシローの発明では、レーン上のお皿の有無を判定することによりカウントする、とてもシンプルな内容でした。くら寿司は、特許の観点でこれをどのように差別化しているのでしょうか?
特開2021-016466
発明の名称:飲食物搬送装置の飲食物管理装置
出願人:くら寿司株式会社
出願日:2019.7.18
ステータス:登録(2023.12時点)
くら寿司のお皿カウントシステムは、お皿に乗せられたお寿司を覆う、抗菌カバーの開閉状態を判定することによりカウントしています。
引用元:特開2021-016466の図8
具体的には、各客席(BOX席)の上流側と下流側にカメラが設置され、お皿の上のお寿司を覆うカバー(=鮮度くんという名前で有名ですね!)が閉じているか、開いているかを判定します。
上の図では、レーンの左から右にお皿が流れています。席T-2の上流側に設置されたカメラの撮像結果ではカバーが閉じていると判定されたものの、下流側に設置されたカメラの撮像結果ではカバーが開いていると判定されたことから、席T-2の顧客がカバーを開け、レーンからお皿を取ったと判断されます。原理はスシローのアイデアと似ていますが、カバーの開閉を見ているところが、分かりやすい違いです。
実際に請求項1の構成に、下記の構成が入っているため、上記のスシローの特許の構成とは明らかに異なりますね。
飲食物収容体に飲食物が収納されているか否かを検出するための飲食物検出器
※注:飲食物収容体が鮮度くんに相当します。
結論
どちらも、席の上流と下流の状況変化を検知する発想からくるものですが、特許上は上手く差別化されていますね。
テイクアウトロッカー
スシロー:『自動土産ロッカー』システム
スシローには、テイクアウト用ロッカーとして、『自動土産ロッカー』が設置されています。顧客によって事前に注文されたお持ち帰りのお寿司を、待つことなく受け取ることができます。注文時、またはお会計時にQRコードが発行され、そのQRコードをロッカーにかざすことでロッカーが解錠し、予約した商品を持ち帰ることができる仕組みになっています。
https://www.akindo-sushiro.co.jp/campaign/detail.php?id=1485
この自動土産ロッカーは、2019年6月に最初に導入されて以来、お店のスタッフを介することなく、待ち時間不要でお寿司を受け取れる点が好評のようです。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000150.000049164.html
現時点(2023/12)時点で、自動土産ロッカーに関する出願は確認できませんでした。
くら寿司:受け渡しロッカーの特許を発見。いずれ導入か…?
くら寿司は、受け渡しロッカーに関する特許出願がありました。早速内容を見てみましょう。
特開2022-137639
出願日:令和3年3月9日
出願人:くら寿司株式会社
ステータス:未審査請求
公開公報の請求項(主に請求項1)の内容を簡単に図で表してみました。
一言で書くと…
注文したお寿司の受け取り予定時間から長時間経過したオーダー商品を、顧客がロッカーから取り出せないようロックするシステムです。
説明の便宜上、上の図で番号をつけた①〜③の処理について、それぞれの処理を見てみます。
①注文情報を受信
ユーザ識別子に紐づけられた注文情報を、ユーザの端末から受信します。ここで、注文情報には、商品の受け取り予定時刻を示す時刻情報が含まれています。ユーザ識別子は、たとえば、ユーザIDやユーザのメールアドレス、ユーザのスマホの端末識別子など、ユーザを識別できる情報です(→そのまま)
②判断
続いてサーバは、①で受信した情報のうち、時刻情報を利用して、『商品の受け取り予定時間に対して長時間経過していないか』を判断します。
③ロッカー処理
②の結果、『受け取り予定時間から長時間経過している』と判断された場合、ロッカーに対して例えば以下の処理をします
- 受け取りにきた顧客が商品を取り出せないようにする(ロック)
- 警告を表示する「お作りしてから時間が経過しているため、従業員にお声掛けください」
店員が対面でお寿司の受け渡しをする従来のスタイルでは、受け渡しの際に、受け取り予定時刻から長時間経過していないか、店員がチェックすることができました。
しかし、ロッカーによる無人受け渡しスタイルを導入することにより、実はお客さんが予定時間を超過して受け取っていても、受け渡しのタイミングで店員がそのチェックをできないという状況が起こる可能性が想定されますね。
お寿司のような鮮度が大切な商品であればなおさらチェックが必要です。そんな課題を解決できるようなロッカー受け取りシステムが、特許出願されているのですね。
※補足:本特許出願はまだ登録前なので、請求項の内容は現状の内容から変わる可能性があります。
結論
くら寿司が特許出願したのは2021年、スシローの『自動土産ロッカー』の導入より後のタイミングになります。くら寿司の特許出願は、『注文したお寿司の受け取り予定時間から長時間経過したオーダー商品を取り出せないようロッカーをロックする』点を深堀りしており、さらなる利便性を狙った内容になっています。
スシローは、くら寿司の特許出願に対し、どのような方向性でテイクアウトサービスを充実させていくのでしょうか?また、くら寿司は、テイクアウトロッカーを実現させる日がやって来るのでしょうか?
知財目線で筆者が気になったのは、くら寿司の特許出願の内容とタイミングです。スシローにて導入後のタイミングで、上の特許が特許出願されています。これは、お持ち帰りロッカーをくら寿司でもいずれ導入する予定であるという理由から出願されたのか、それとも、スシローのロッカーシステムの普及を懸念しての意図が大きかったのか。どちらでしょうか?いずれにしろ、スシローとくら寿司、まだまだ今後も、目が離せませんね!
オモチさんが執筆される身近で楽しい記事をこれからもご期待ください!
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金田 有美子(通称オモチ)
略歴
弁理士として特許事務所で働く傍ら、身近な商品・サービスと知財をテーマに記事執筆をしています。企業知財経験もあります。
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