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今回は、デスクワークがメインの私がよく使っている、そして同じくデスクワークメインのビジネスマンの間で多く使われているであろう、花王の「蒸気でホットアイマスク」に関する記事です。
明細書を書いたり、このような記事を書いたり・・・
PCに向かうことが多い私は、眼の疲れはどうしても避けて通れません。
そのとき、かなり助けてもらっているのが、こちら。
アイマスクで眼の周りを温めていきます。
お昼休みのお昼寝との相性がとてもよいです。温度持続時間も15-20minと、ちょうどぴったり。
2007年に花王から発売されて以来、ロングヒットの「蒸気でホットアイマスク」(以下、本記事では「アイマスク」とします)。
本記事では、アイマスクのロングヒットの秘密を、知財の観点から探っていこうと思います。
※本記事は、2024年12月時点での調査に基づいて執筆しております。
実は『全国発明表彰 発明賞』を受賞していたアイマスクの特許
調べてみると、アイマスクの特許は、平成28年度全国発明表彰にて、発明賞を受賞されていました。その特許がこちらです。
特許3629956
請求項1の内容を簡単に説明してみます。
目及び目の周囲を覆うアイマスク形状の水蒸気発生体に関するものであり、
装着時に水蒸気発生部が目の上に位置することが書いてあります。
★水蒸気発生部とは・・・
└放出される水蒸気の温度が50℃以下に制御されています。
└水蒸気の温度を制御するための温度調節材として、(1)織布、不織布、(2)紙類、(3)プラスチック、天然ゴム、再生ゴム又は合成ゴムから形成した多孔性フィルム又は多孔性シート、(4)穿孔を有する発泡プラスチック及び(5)穿孔を有する金属箔の少なくとも1種を含む積層物が設けられていることが記載されています。
明細書の内容を見ると、アイマスクの誕生は、蒸しタオルを目に当てることがヒントになったようですね。
明細書段落【0006】より引用:
一方、蒸しタオルは目に安全な湿気を供給することができるが、手軽に用意することができず、任意の場所で随時利用できるとは限らない。
一時期、電子レンジで温めて使うタイプのアイマスクを使用していたのですが、温めるというひと手間が面倒になってしまいました。会社など、自宅以外の場所ではなおさらですよね。
アイマスクの蒸気が出る仕組みは下記のように公開されています。
花王公式サイトより引用:
蒸気が出るタイプの「めぐりズム」のシート内部には、鉄粉と水分を含んだ発熱体があります。開封するとシートから空気が入り、発熱体の中の鉄粉が酸化して熱が発生します。その熱で、発熱体に含まれている水分が、目にはみえませんが蒸気になって出てきます。
これにより、使いたいときに手軽に使えるアイテムとして実現できたのですね。
このアイマスクに関する特許は上記の1件だけではなく、今までに複数出願されています。
アイマスクは2007年の発売開始以降、何度か改良もされているようで、継続的に出願されていることが確認できました。(花王のニュースリリースはこちら)
花王の着眼点や改良の秘密を、特許の内容から見てみましょう。
水蒸気の発生量
目元が温まる秘訣、水蒸気の発生についての発明が特許出願されていましたよ。
特開2024-072212
こちらの文献では、アイマスク内部の水蒸気発生量を増やすことを課題としています。具体的には、水蒸気発生量を増やすために、単純に発熱体の発熱温度を高めると、温熱具(アイマスク)と触れる部分が過度に加熱されてしまうおそれがあると記載されています。
これに対して、アイマスクのシート(裏面シート)の材料、及びその繊維の径が規定されていますね。
請求項1の後半部分より引用:
前記裏面シートは、ポリエチレンテレフタレート樹脂を少なくとも含有する繊維を含む通気性の繊維シートから構成されており、
前記裏面シートは、その平面視において走査型電子顕微鏡観察によって測定される繊維径が15μm超である裏面側第1繊維を含む、温熱具。
ここでいう、「裏面シート」とは、使用者の肌から遠い側(外側)に位置するシートを指します。一見、肌に接触するほうのシートに工夫があるのかなと考える人も多そうですね。外側のシートを工夫する理由は一体なんでしょうか?
明細書段落0020より引用:
温熱具1の外面をなす裏面シート6として、PET樹脂を少なくとも含有する繊維を含む繊維シートを用いると、温熱具1の使用時に発生する熱によって裏面シート6の嵩が増し、該裏面シート6中に多量の空気層が生じる。この空気層が断熱層として作用して発熱体3が保温される。その結果、発熱体3からの水蒸気発生量が増加する。
「嵩が増す」ことについて、加熱によってPET樹脂に含まれる繊維の弾性回復が生じていると記載されています。
そうそう最近のパッケージには、このような表記がありますよね。
「つけた瞬間、ふっくら」
確かに包装から取り出し、顔に装着すると、アイマスクが徐々に厚くなります。ふっくらの秘密は、シートの材料にあるのかもしれません。
この、使用時のアイマスクの膨らみについて、もう1件ご紹介しようと思います。続いては、肌に接触する側のシートに関する発明です。
特許7414846
請求項1より引用:(太字下線は筆者にて変更)
発熱体と、該発熱体を収容する包材とを備えた温熱具であって、
前記包材のうち、使用時に加熱対象体に当接する部位が、捲縮繊維と非捲縮繊維とを含む通気性の繊維シートから構成されており、
前記繊維シートは、前記捲縮繊維と前記非捲縮繊維とが絡合してシート形態を維持しており、
前記捲縮繊維と前記非捲縮繊維との合計に対する該非捲縮繊維の割合が50質量%以上95質量%以下であり、
前記発熱体は、被酸化性金属の粉末、炭素材料の粉末及び水を含み、
前記発熱体は、発熱に伴い蒸気を発生する機能を有し、
10分間での水蒸気の総発生量を10mg/10分以上となるように水蒸気を発生する、温熱具。
表面シートは、「捲縮繊維と、非捲縮繊維とを含む繊維シート」の構成であることにより、以下のような効果があると記載されています。
明細書段落0024より引用:
使用時での熱の発生及び熱によって温まった空気によって、表面シート5を構成する繊維の繊維間距離を広げて、シートをより嵩高く回復させることができ、その結果、温熱具1の使用時に、柔軟性及びフィット性が高いレベルで発現できるようにしている。
熱によって、繊維間距離が広がり、シートが嵩高くなるのですね。
この嵩高さについて、経時変化についても記載されていますね。開封直後から、1時間経過時までは、ユーザに対して厚みの増加を知覚させられる程度の増加量になっていることが記載されています。
ふっくらする秘密がしっかりと特許で守られていましたね。
香りがプラスされる仕組み
次は香りについて見てみましょう。
アイマスクは、目の疲れが取れるだけでなく、香りを感じることができるのもリラックスできる理由の一つです。香りについて、さまざまなバリエーションのアイテムが発売されており、店頭で選ぶのが楽しみだったりします。
最近見つけたのは数量限定「キンモクセイの香り」です。
香りについての工夫も、特許出願されていました。
特開2019-024924
2つの化合物(A)(B)を含有する香料組成物を含むことが、請求項1において記載されています。
請求項1より引用:(太字下線は筆者にて変更)
被酸化性金属、吸水剤および水を備える発熱部と、
少なくとも一部に通気性を有し、前記発熱部を収容する袋体と、
を有する温熱具であって、
該温熱具は、
(A)セスキテルペン炭化水素およびこの誘導体から選ばれる1種または2種以上であって、ビシクロ[7.2.0]ウンデカン骨格を有しない化合物
(B)テルペン骨格を有し、炭素数が10~12である含酸素化合物
を含有する香料組成物にて賦香されており、
前記被酸化性金属100質量部に対する、成分(A)の含有量が、0.1質量部以上0.8質量部以下であり、
成分(B)に対する成分(A)の質量割合((A)/(B))が、0.1以上4以下である、温熱具。
アイマスクの一番の役割は「(水蒸気を発生させることにより)目を温めること」であり、あくまでも香りは補助的な役割なのですが、香料組成物の選択によっては、こんな減少が起きることもあるのだとか。
明細書段落0005より引用:
特定の香り成分を温熱具に賦香すると、温熱具の製造後、実際に使用されるまでの間に、使用開始直後の温度上昇が不十分となる場合があるといった新たな課題を見出した。
アイマスクの発熱性は安定的に発揮できるようにしつつ、香りが感じられるようにするためには、成分(A)の化合物と、成分(B)の化合物とを含む香料組成物を用いるのがよいとのこと。
より詳しくは、成分(A)が温熱具1の使用開始直後の温度上昇に影響を与える香りの群であるものとして特定され、成分(B)は、成分(A)が温熱具1に含まれることにより生じる課題を解消する上で有効な成分であると明細書に記載があります(段落0061、0066)。
このように、アイマスクの温度上昇と香りの発生を両立させる工夫が特許出願されていました!
まとめ
蒸気でホットアイマスクに関する特許は、ここではとても紹介しきれないほどの数が確認できました!アイテムそのものの発明に限らず、アイマスクの製造方法についても出願されていました(特開2021-100658等)。そして、2007年の発売当初から最近まで、コンスタントに出願がされていたことも特徴的でした。
アイマスクといえば、遅くまで会社に残っていたときに、先輩がおすそわけしてくれたのが思い出です(笑)お菓子やコーヒードリップを渡す感覚で同僚に渡せるのも、使い捨てならではですね!当時は使い捨てタイプのアイマスクはあまりなかったのではないでしょうか?出先で手軽に使えたり、ときには共に頑張る同士(?)に手渡してねぎらったり・・・新しい文化を生み出してくれたのは、花王のアイマスクなのではないでしょうか!
私は既に手放せないアイテムとなっています!これからも使い続けます!
オモチさんが執筆される身近で楽しい記事をこれからもご期待ください!
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作家名
金田 有美子(通称オモチ)
略歴
弁理士として特許事務所で働く傍ら、身近な商品・サービスと知財をテーマに記事執筆をしています。企業知財経験もあります。
現所属先
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BAMBOO INCUBATOR 専門家メンバー
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