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今回は、食品メーカーの提供する『冷凍餃子』に着目した記事です。冷凍食品には各社のさまざまな技術がつまっており、年々進化しております。
本記事では、あの有名な『味の素』と『大阪王将』について、冷凍餃子の特許出願を比較しながらご紹介します。
『冷凍餃子のどんな技術を特許出願しているの?』
『各社の冷凍餃子、それぞれの差別化ポイントを知りたい!』 という方は、是非ご覧ください。
※本記事は、2024年2月時点での調査に基づいて執筆しております。
冷凍餃子の特許出願は味の素が先発
まずは味の素から出願されている、冷凍餃子関連の特許を見てみましょう。
過去の特許出願を辿ると…味の素は、もう20年以上も前から冷凍餃子関連の特許出願・権利化を行っておりました。公報の内容を確認してみると・・・着目している課題も、多岐にわたっていることが分かりました。
時代ごとに注力していた観点を整理するため、時系列にしてみました。近年注力している技術課題『蓋・水・油不要』は、調理するユーザにとっては本当にありがたい!
本記事では、『バッター液』に関連する出願に着目していきます!上の図から、バッター液は、『クリスピーな食感・蓋、水、油不要、羽形成』などを握る重要な要素であることが分かります。味の素では、2000年を過ぎたあたりから、バッター液に関する継続的な出願が確認できました。
さて、まず『バッター液』とは?
冷凍餃子がゲタを履いたような感じになっているこのゲタの部分(=バッター液が固まった部分)を指すのですね。
バッター液は、冷凍された状態では固形で、熱したフライパンの上で徐々に溶けて広がっていきます。やがてこんがりとした色の羽根となるのですね!
上の図で確認した通り、味の素はこの『バッター液』に注力し、2000年代後半から、何件も特許を出願して特許網を構築しています。
さて、これに対して大阪王将はどのような戦略を取ったのでしょうか?先に結論を書いてしまうと、大阪王将もバッター液に関する特許を出願・権利取得しています。競合である味の素が構築した特許網のある中、どのような特許出願を行ったのでしょうか?
味の素・大阪王将(株式会社イートアンド)の特許出願をいくつかピックアップして次章でご紹介していきます!
大阪王将の冷凍餃子特許は、『羽根形成』で味の素と差別化
本記事でご紹介する、味の素の特許と大阪王将の特許はこちらです。
まずは味の素の特許出願①と、大阪王将の特許出願②について比較してみました。
バッター液に関する特許は、味の素が先行して出願していました。しかし、味の素の先行出願には『クリスピーな焼き具合』に調整することがバッター液の役割として書かれており、餃子の羽根の形成については、サブ効果的な位置づけで記載されている程度でした。
一方、後発である大阪王将の特許出願は、『餃子の羽根をきれいに形成する』ことを目的として権利化されているのが興味深いです。
大阪王将の特許では、バッター液に該当するものを『羽根形成剤』と請求項で規定しており、バッタ―液=羽根を形成する役割が主であることが読み取れます。
二つ目の相違点として、さらに、大阪王将の特許は羽根形成剤(=バッター液)の製造ステップに発明の特徴があり、味の素の先願とは差別化されています。
味の素の特許には、バッター液は餃子と一緒に加熱してから冷凍されることが記載されていますが、大阪王将の特許は、冷凍前に一度加熱されるのは餃子のみで、バッター液は未加熱なのです。この、未加熱で冷凍するところが発明のポイント!!味の素の先行出願とは全く違う点で、特許出願・権利化がされていますね。
しかし!味の素の特許出願がさらに続きます。
羽根の形成に着目する大阪王将の特許出願の後、味の素からさらに特許出願されていました。
『広がりやすく、崩れにくく、へたりにくい羽根の形成』について、明細書に書かれています。
この味の素特許(=③)と、大阪王将の羽根形成特許(=②)は、どう差別化されているの?
この味の素の羽根形成特許出願(=③)を、大阪王将の特許(=②)と比較してみます。
味の素と大阪王将の『羽根形成』特許比較 ポイントはバッター液粘度の規定
本章では、餃子の羽根形成特許について、大阪王将特許(=②)と味の素特許出願(=③)を比較してみます!
大阪王将の特許では、『(調理前の)バッター液が未加熱であること』というように発明が規定されています!未加熱のまま冷凍することで、バッター液が糊化しないので、低い粘度を保つことができるのだとか。
一方、味の素の特許出願は、粘度については、ある条件下で測定した粘度の数値範囲と、バッタ―液の材料組成で規定されていました!
請求項に記載の数値範囲の粘度、材料組成であれば、羽根がフライパンで広がりやすく、崩れにくく、へたりにくいという効果が記載されています!
※③の味の素による特許出願は、審査段階で加工デンプンの含有量及びたん白質の含有量を更に限定することにより、登録査定となっていました!
まとめ
味の素と大阪王将、お互いに、他社と異なるポイントを上手く特許出願・権利化している様子が伺えます。
『自社技術について、競合他社との差別化はどこになるのかを把握し、その差別化ポイントを特許権利化する。』
是非とも実務に参考にしたい戦略思考が、身近な餃子製品の特許合戦に垣間見えました。
大阪王将と味の素の餃子、食べ比べしたくなってしまいますね!!
オモチさんが執筆される身近で楽しい記事をこれからもご期待ください!
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オフィシャル・ライターのご紹介
作家名
金田 有美子(通称オモチ)
略歴
弁理士として特許事務所で働く傍ら、身近な商品・サービスと知財をテーマに記事執筆をしています。企業知財経験もあります。
現所属先
弁理士法人IPX
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BAMBOO INCUBATOR 専門家メンバー
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