本記事は “独学の弁理士講座” 主催の「弁理士の日記念ブログ企画2022」に共感し参加をするものです。
https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2022/
弁理士の日である7月1日に共通のテーマでブログを書いて盛り上がろうという素敵な企画…
株式会社知財の楽校もエントリーし、今年のお題である「知財業界での大ピンチ」についてブログ記事を書きました。気楽に読んで頂けると嬉しいです。よろしくお願い致します。
自己紹介
こんにちは。株式会社知財の楽校(ちざいのがっこう)代表の玉利泰成です。
- 新卒で化学系企業に入社し知的財産部(コーポレート部門)に配属
- 知財部で新規事業系の特許関連実務を5年間担当
- その後事業部に異動し新規事業立ち上げ関連の知財戦略を担当
- 知財歴は2022年度で8年目
- 2020年6月に特許の大学(改名して現在は特許の楽校)を立ち上げ
- 特許初心者(主に研究者)に向けて楽しく分かりやすくをモットーに特許の知識を発信中
- 2021年2月に特許の楽校として正式に開業(起業)し個人事業主としても活動
- 2021年7月から “副業” から “複業” にシフトし 企業勤め(月火金)と個人事業(水木)の両立に挑戦
- 2021年8月に株式会社知財の楽校を設立(法人成り)し代表取締役に就任
株式会社知財の楽校の紹介
株式会社知財の楽校のミッションは知財教育サービスを通じて事業・研究開発に知財を実装する支援者となることです。事業・研究開発を職務とする方々の目線で知財知識を厳選し、図解を軸に様々な表現形態を駆使して頭に残る教材コンテンツにまとめ上げ発信していきます。
知財業界での大ピンチ
ピンチで最初に思い浮かぶ知財業務
私が「ピンチ」という単語を聞いて最初に思い浮かべた知財業務は「他社特許対策」です。知財環境分析に基づく戦略提言、将来を想定したプロアクティブな権利創出、ライセンスアウトによる知財のプロフィット化等、自社の知財権の活用に関する知財業務は花形と捉えられることも多いですが、その成否が事業停止に直結し得るという意味では大ピンチの中で取り組む知財の仕事は他社特許対策なのではないかと思います。
他社特許対策とは何か
知財の楽校では、知財初心者(研究開発者や新人知財担当)に向けて事業・開発目線の知財基礎知識を発信しておりますので、そのような方にも本記事を読んで頂けるように、解説(図解)を織り交ぜながら書きたいと思います。
自社事業において実施する技術内容の想定が下図の青線内、他社の保有している特許権の権利範囲が緑線内であったとします。自社事業で用いる技術の一部が他社の特許権を踏んでしまっており、これは極めて危険な状況と言えます。
他社が保有している特許権に基づいて侵害訴訟を提起した場合、仮にその訴訟に負けてしまうようなことがあれば、製造や販売行為が差止となり事業停止に追い込まれる可能性があります。また、損害賠償が多額になれば再起困難な程の重篤なダメージを負ってしまうこともあり得ます。
このような状況(ピンチ)を打破する行為、或いはピンチを察知して事前に策を打つことを「他社特許対策」と呼びます。世界中には果てしない数の他社特許がございますので、自社技術と他社特許の内容を対比しながら、近しい関係にあるものを段階的に絞り込んでいくことになります。最初に機械検索を用いて調査を行い、そこに人の目を入れて対策を要する特許をスクリーニングしていきます。対策が必要と判断した特許については、実際に事業上の問題に発展するリスクを織り込みながらモニタリングし、対策の時期や内容を見極めます。その上で、ここぞというタイミングで対策手段を実行します。
他社特許対策のマネジメント
私は、企業内で新規事業立ち上げ期の知財担当をしていますが、組織の知財力を高めるトリガーとして他社特許対策を特に重要視しています(想い入れがあります)。その理由は、上述したように、ピンチを伴って事業における知財の重要性を肌で感じられる機会となり得ること、そしてその対策マネジメントの過程で事業・研究開発・知財のリソースが繋がっていくことが期待できるからです。
ある意味、知財業界における最大のピンチは、事業や研究開発行為から知財という要素が乖離してしまうことだと言えると思いますが、他社特許対策という機会はその一つの重要な打ち手として機能すると考えています。これはまさに「ピンチをチャンスに」という今年のお題に合致するものだと感じましたので、私が意識している他社特許対策マネジメントの考え方について、この場を借りて発信してみたいと思います。
さて、調査やスクリーニングを通して対策を施すべき特許は複数リストアップされていくことになります。対策の実行手段としては、①特許権を無効化する、②技術内容で回避する、③特許権を購入する、④ライセンス許諾を受けるの他、⑤法律事務所の観点を取得して備える、⑥成行で無害となることを睨み静観する等が考えられます。各他社特許について、これら①~⑥のいずれで対処するかを采配していくことが、他社特許対策の実行マネジメントであると言えます。これには、事業・開発・知財の要素が絡み合う高度な判断を伴います。
まずは極端な例を提示してみます。対策を希望する他社特許を片っ端から全て無効化していくケースです。要するに、他社特許による事業リスクを潰し切る(ゼロにする)ことを目指すものです。これは一見シンプル且つ最も安心な対策方針に思えますが、現実的には得策でないケースも多い筈です。
当然のことながら、特許権は完全に潰し切れるとは限りません。あの手この手を仕掛けたとしても、結局権利が有効なものとして残ってしまうこともあります。そして、仮に潰せたとしても、それを成し遂げるには膨大な対応リソースを要することも少なくありません。限りあるリソースの中で、そこまでして潰しに掛かるべきかという検討が必要になります。更に言えば、特許権を購入することによって自社の武器として手中に収める選択肢すらありますので、リターンの観点でも潰すことが最適解とは限りません。以上を踏まえれば、無効化一辺倒ではなくリソースとリターンを見極めながら対策の実行策を采配することが重要と言える筈です。しかしながら、知財が事業や研究開発行為と乖離してしまっている程、知財は知財の範疇で「無効化で解決してくれ」という話になってしまうと思っています。
だからこそ、事業、開発、知財の属性を意識したリソースマネジメントを丁寧に語ることが必要だと考えています。以下、具体的に、各実行手段について投入するリソースの属性イメージを示していきます。(普段私は、このイメージを持って、事業や開発メンバーと話をしに行くようにしています。)
特許権の無効化を手段として選択する場合には、最も大きな投入リソースを要するのは知財、次いで開発リソースです。知財的には、審査官でも看過するような無効化のための証拠集めや、それらを素材とする高度な論理構築を行うことになりますので、それなりの検討リソースを投入することになります。また、それらの証拠の一環として、技術的な検証等を行うケースもありますので、開発側の協力リソースも必要となります。
技術内容で回避する手段を選択する場合には、最も大きな投入リソースを要するのは開発、次いで事業リソースです。開発的には、他社特許権を踏まない代替技術をどうにかして見出さなければなりませんし、その技術に基づいて、競争力のある事業プランを練り直す必要が出てきます。
特許権を購入する、或いはライセンス許諾を受ける手段を選択する場合には、最も大きな投入リソースを要するのは事業、次いで知財です。事業的には、その特許権を保有している相手方と交渉し、購入やライセンス許諾に関する契約をまとめ上げなければなりません。その過程では、契約対象となり得る特許権の価値を見定め交渉カードを用意するために、知財的な協力リソースが当然に必要となります。
なお、ここまでは一つ一つの手段について解説してきましたが、留意すべきことがあります。それは、これら実行手段の選択にあたっては、複合的な効果があるということです。つまりは、一件一件の対策に関するリソース対効果に目を奪われるのではなく、群での対策判断をしていくことが必要です。一つ例を出したいと思います。自社と他社の事業領域が近傍で競合しており、お互いに特許権の持ち合いになって身動きがとれない場合には、クロスライセンスという手段があり得ます。交渉では、お互いに持ち札となる特許権等を差し出し合いながら、自社に有利な条件を探っていくことになります。その交渉のやり取りを想定して、特定の戦力を狙い撃ちで削っておくことが考えられます。最終的に事業は、プレイヤーや製品単位で動かしていくことになりますので、その一群として足並みを揃えて実行策を打っていく必要があります。
以上の通り、事業・研究開発・知財の三要素を統合し、方針を共有しながら実行策をマネジメントしていくことが大切になります。
このように位置付けを伝えた上で事業上のピンチとなり得る他社特許対策の打ち手を議論していくことによって、事業・研究開発・知財のリソースを一体で捉えて方針を考える風土が生まれると考えています。
最後に
最後まで読んで頂いてありがとうございました。他社特許の存在により事業がピンチに陥りそうな時、その難局に立ち向かう中で事業・研究開発・知財のリソースを一体化してピンチをチャンスに変えていくために…少しでも役に立つ考え方を発信できていたら幸いでございます。
株式会社知財の楽校では、このように事業や研究開発の目線で知財知識を図解し発信しています。各種動画教材も販売しておりますので、ご興味のある方はぜひ覗いてみて下さい。サンプル動画も掲載しております。
知財研修用動画教材
(研究開発担当者向け)
オンボードアイピー
謝辞
独学の弁理士講座を監修されている “内田浩輔さん” 素敵な企画をありがとうございました。
知財業界で活躍されている方々が「知財業界での大ピンチ」をテーマに様々な記事を書いていますのでぜひご覧ください。
https://benrishikoza.com/blog/benrishinohi2022/
知財の楽校 公式メールマガジン